治療へのモチベーションは、治療効果につながる非常に重要なファクターです。医師から勧められる、あるいは、「カウンセリング(心理療法)を受けたら良かった」という意見を知人から聞いたなどのキッカケから、カウンセリングを希望される患者さんは多くいらっしゃいます。しかし、カウンセリングは現実的な困りごとに対して、日常生活場面へ直接的な介入をすることではなく、間接的、つまり相談室内のやり取りから何らかの影響を受け、それを日常生活場面に患者さん自身が活かす努力が必要になります。しかし、実際、現在の苦痛な事柄を解消したいという強力な動機の下、鎮痛剤のような即効性を求めてくる患者さんは少なくありません。
セラピスト(カウンセラー)に話を肯定的にじっくりと聞いてもらうという体験をするだけで心が少し軽くなることはありえます。しかし、それはパニック発作に対する抗不安薬のようなもので、短期的な作用しかもたらしません。
不安や心因的身体反応などの病因については、もともとその発症の”種”といえる要因が、長い年月を経て水面下で大きくなり、現在の環境における何らかの刺激を受け、表に出てきたという考えがあります。しかし、長い年月の中で醸造された病の要素は、すでに深く根を張っているにも関わらず、一見は前触れなく現れたように見えるので、簡単に解消できるように感じられます。また、キッカケとなった環境の刺激の多くは、何らかの形で対人関係に由来するものですので、相手や環境に対する不満感がどんな場合でも少なからず生じ、それによる「自分だけが変わらなくてはならない」という屈辱感が優勢になるようです。これらの理由が、心理療法開始時の治療に対する物足りなさ、苛立ち、あきらめといった気持ちにつながるようです。治療者が説明を丁寧にしないことも要因かもしれませんが、説明をしても、納得が得られない場合も多くあります。
意味のある心理療法を受けるためには、患者さん側のモチベーションも必要条件と言えます。自分が受けようと思うときには、短期的な見通しではなく、長期的な見通しをもっていただき、じっくりと治療に臨むことが、良い結果につながると言えます。
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